DSM-5:自閉症スペクトラム障害の診断基準変更に伴うインパクトに関する報道について - ベムのメモ帳Z
■[自閉症]DSM-5:自閉症スペクトラム障害の診断基準変更に伴うインパクトに関する報道について
2013年にアメリカ精神医学会(APA)の「精神疾患の診断・統計マニュアル」(DSM)が17年ぶりに本格的な改訂される予定で検討が進行中であることに関して、2年近く前に一度記事にしました。
■DSM-5公開草案(自閉症と精神遅滞について)
上記のとおり新しいDSMでは、自閉性障害、アスペルガー症候群、PDD-NOSなどが自閉症スペクトラム障害に一本化される方向となっています。さらに診断基準の変更によって、影響が出ることも予想されますが、今月19日のニューヨーク・タイムズの記事を発端に騒ぎが起こっています。
■New Definition of Autism Will Exclude Many, Study Suggests-New York Times
(新たな自閉症の定義は多くの人を締め出すと研究は示唆します)
長年、現在の診断基準の曖昧さが自閉症とその関連障害の診断率上昇に寄与したと多くの専門家が指摘してきたということであり、DSMが第4版から第5版に改訂されるに当たっては、専門家の多くが自閉症の診断基準が明確になるとともに、それに伴ってその範囲が狭くなることを予想しているとのことです。
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境界線がグレーなものに半ば無理やりに線を引くいわゆる「線引き問題」あるいは「グレーゾーン問題」は様々な分野であることではないかと思いますが、健常者と障害者との「線引き」は学術的な問題や医療の範疇の問題だけにとどまらず、教育・福祉・就労・その他の各種サービスやサポート、障害当事者自身のアイデンティティの問題など多岐の分野にわたって影響を与えることになります。特に米国では医療保険の給付の問題が話題のぼるようです。したがって必要なサービスやサポートが享受できる「資格」を失うことのないよう、一部の擁護団体はこの変化に憂慮の意思を示すとともに、慎重にモニタリングしていく必要性を主張しています。
自閉症の範 囲が狭くなるにしても、それがどの程度のインパクトを持つものなのかについてなのですが、19日にアイスランド医師会の会議でイェール大学医学部の研究チームから発表された新たな分析は、あくまでも予備的なものではあるものの、高機能を中心にかなり急激に狭くなるだろうと予測しているとのことです。
肥満の精神的健康への影響
具体的には、現在の基準の基礎として用いられた1993年の研究のデータから、372人の最も高機能な群に焦点を当てて全体を見立て、そのうちのたったの45%しか検討中の新たな自閉症スペクトラムに該当しないと主張しているということです。抽出したサンプルを高機能群に絞ったことでわずかに数字が誇張されている可能性を発表者は認めてはいるものの、1993年に古典的な自閉症であるとされた人々のおよそ1/4、アスペルガー症候群ではおよそ3/4、PDD-NOSの85%は対象から外れることになると分析したとされています。
ただし、新基準を作成している米国精神医学会の専門家は、従来の予測では除外対象となる人はかなり少数であると結論しており、今回の分析の示す 変化のインパクトについて強い異論を唱えているとのことです。かなり古いデータを用いたことが今回の結果に影響したのではないかと述べています。
なお、今回の分析を発表したエール大学医学部のVolkmar博士は当初新基準作成のワーキンググループのメンバーだったそうですが、早期の段階で辞任したのだそうです。辞任の理由や経緯は書かれていません。
記事ではこれをきっかけに、どの程度の人数の人々に影響を及ぼすのかについての議論が開始され、より詳細な調査が行われることになるだろうとしています。実際、研究者たちは今年後半により大きなサンプルサイズに基づいたより広範囲の分析を発表するとしているとのことです。
不安と思考停止
さて、今回のイェール大学の数字ですが、予備的な分析であるということに加えて内容の詳細が公開されておらず、また査読を受けていないということで、これほど極端なインパクトを受けるということに関しては懐疑的に捉えている向きが目立つように思います。ちょっとメデイアが先走った印象も受けます。慌てずに今後の質の高い研究を待ったほうがよさそうかなと思います。なお、ニューヨーク・タイムズの記事が掲載された翌日の20日にイェール大学は4月までの間に今後より完成度の高い研究を発表するというニュースをリリースしています(↓)。
■Autism redefined: Yale researchers study impact of proposed diagnostic criteria- YaleNews
(再定義される自閉症:イェールの研究者は提案された診断基準のインパクトを研究します)
一方、同じ20日、APA側は以下の文書をリリースしました。
■DSM-5 Proposed Criteria for Autism Spectrum Disorder Designed to Provide More Accurate Diagnosis and Treatment - The American Psychiatric Association(PDFファイル)
(DSM-5はより正確な診断と治療を提供するために自閉症スペクトラム障害の基準を提案しました)
実地試験において、既にケアを受けているASD診断者の数を少しも変えることなく、なおかつ、より焦点のあった治療に結びつくより正確な診断が可能になることが示されたと主張しています。
Proposed DSM-5 criteria are being tested in real-life clinical settings known as field trials. Field testing of the proposed criteria for autism spectrum disorder does not indicate that there will be any change in the number of patients receiving care for autism spectrum disorders in treatment centers--just more accurate diagnoses that can lead to more focused treatment.
イェール大学とは全面対決の姿勢のように見えます。
米国を中心にASD当事者や家族の間に動揺が広がっているようですが、Autism Speaksは本件に関して大きな注目を向けているポーズを示しつつも、本件をテーマに実施したLive Chatでは今のところ比較的冷静さを保っている様子は伺えます。そのログが公開されていますのでご興味のある方はご覧になってみてください。
■LIVE Chat with Geri Dawson, PhD & Lisa Goring Analyzing DSM-5 « Autism Speaks Official Blog
ただ、範囲がせまくなるという研究はこれまでにも発表されており、以下のブログではフィンランドの研究を紹介しています。それによると、DSM- IV TRとDSM5草案の比較において、特にアスペルガー症候群や高機能自閉症の同定に関して感度が低く修正が必要と結論しています。
■New Definition of Autism May Exclude Many, Study Suggests « Left Brain/Right Brain
本研究の要約へのリンクも貼っておきます。
■Autism spectrum disorders... [J Am Acad Child Adolesc Psychiatry. 2011] - PubMed – NCBI
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